2017年2月3日金曜日

出家功徳



【定義】出家して得ることが出来る功徳のこと。 ②道元禅師の『正法眼蔵』の巻名の一。95巻本では86巻、12巻本では1巻。説時・説処は不明である。 【内容】 道元禅師は、『正法眼蔵』「出家」巻では、まさに出家受戒することが、成道への受記であり、成道そのものであるとしたが、本巻では、様々な経典や論書を引用しながら、出家の功徳を明らかにしている。 冒頭では、『大智度論』から龍樹の行実を引いて、「酔婆羅門」について述べている。これは、酔った勢いでかりそめに比丘になったものだったが、それでも出家の功徳があるとされている。他にも転輪聖王という俗世では最高の存在でも、出家すればなお素晴らしいことや、ふざけて袈裟を着けた女性が素晴らしい比丘尼(蓮華色比丘尼)になった話などが示される。 それから、我々の身体は、四大五蘊が仮に因縁和合しているものだと説く道元禅師は、まさに生滅を繰り返す存在としての我々を「刹那生滅」であるとする。そして、生滅する存在を超えて、絶対なる悟りに入るべきであると説くのである。
しるべし、今生の人身は、四大五蘊因縁和合して、かりになせり。八苦つねにあり。いはんや刹那刹那に生滅してさらにとどまらず。いはんや一弾指のあひだに六十五の刹那生滅すといへども、みづからくらきによりて、いまだしらざるなり。すべて一日夜があひだに、六十四億九万九千九百八十の刹那ありて、五蘊生滅すといへども、しらざるなり。あはれむべし、われ生滅すといへども、みづからしらざること。この刹那生滅の量、ただ仏世尊ならびに舎利弗とのみしらせたまふ。余聖おほかれども、ひとりもしるところにあらざるなり。この刹那生滅の道理によりて、衆生すなはち善悪の業をつくる。また刹那生滅の道理によりて、衆生発心得道す。かくのごとく生滅する人身なり、たとひをしむともとどまらじ。むかしより、をしんでとどまれる一人いまだなし。かくのごとくわれにあらざる人身なりといへども、めぐらして出家受戒するがごときは、三世の諸仏の所証なる阿耨多羅三藐三菩提、金剛不壊の仏果を証するなり。
さらに、このような「出家至上主義」は、戒律の護持についても及び、出家者の素晴らしさは、俗人の思慮の及ぶ範囲ではないとされている。それだけ、仏に帰依する行為としては、出家受戒が優れているのである。
しるべし、出家して禁戒を破すといへども、在家にて戒をやぶらざるにはすぐれたり。帰仏かならず出家受戒すぐれたるべし。
そして、とにかく剃髪し、袈裟を着ける存在こそが優れているのであり、戒律の護持にこだわることは許されていない。
しるべし、剃髪染衣すれば、たとひ不持戒なれども、無上大涅槃の印のために印せらるるなり。ひとこれを悩乱すれば、三世諸仏の報身を壊するなり、逆罪とおなじかるべし。あきらかにしりぬ、出家の功徳ただちに三世諸仏にちかしといふことを。
また、「礼拝得髄」巻や「出家」巻で説かれていた、様々な成仏法が同巻では改めて主題化されている。女人成仏や在家成仏は一切が否定されて、とにかく出家者だけが成仏することが明示されている。これは、男女の性の問題ではないことが示されるとともに、在家者では得道できないことを明示したのである(当然、出家する資格は男性・女性ともに保持することが、同巻中に示される。よって、女身成仏の否定は、女性差別ではない)。
三世十方諸仏、みな一仏としても、在家成仏の諸仏ましまさず。過去有仏のゆえに、出家受戒の功徳あり。衆生の得道、かならず出家受戒によるなり。おほよそ出家受戒の功徳、すなはち諸仏の常法なるがゆえに、その功徳無量なり。聖教のなかに在家成仏の説あれど、正伝にあらず。女身成仏の説あれど、またこれ正伝にあらず。仏祖正伝するは、出家成仏なり。
在家成仏は否定しているが、インドの僧伽難提尊者の事例を挙げて、「在家出家」があったことを指摘している。しかし、難提尊者も最終的には家を出たことを挙げて、家に留まることは、最終的に得道できないことを示している。
在家出家の称、このときはじめてきこゆ。ただし宿善のたすくるところ、天光のなかに坦路をえたり。つひに王宮をいでて石窟にいたる、まことに勝躅なり。世楽をいとひ俗塵をうれふるは聖者なり、五欲をしたひ出離をわするるは凡愚なり。
そして、『大乗義章』を引用しながら、出家者が行う四種の行法を採り上げている。一生不離叢林にして、行四依すべきであると説く。
それ出家行法に四種あり、いはゆる四依なり。一、尽形寿樹下坐。二、尽形寿著糞掃衣。三、尽形寿乞食。四、尽形寿有病服陳棄薬。共行此法、方名出家、方名為僧。若不行此、不名為僧。是故名出家行法。
同巻ではとにかく在家よりも出家者の優位を繰り返し説くことが多く、末尾に到っても、釈尊の実子である羅睺羅(ラーフラ)尊者が出家したことの素晴らしさを指摘して、さらに鎌倉時代当時の日本の皇室・貴族に対して出家すべきであると説いている。
西天伝仏正法眼蔵の祖師のなかに、王子の出家せるしげし。いま震旦初祖、これ香至王第三皇子なり。王位をおもくせず、正法伝持せり。出家の最尊なる、あきらかにしりぬべし。

0 件のコメント:

コメントを投稿